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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(行ツ)37号 判決

上告人

梁商壽

外三名

右四名訴訟代理人

菅原克也

被上告人

法務大臣

古井喜實

被上告人

横浜入国管理事務所主任審査官

中市二一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人菅原克也の上告理由について

本邦に不法入国し、そのまま在留を継続する外国人は、出入国管理令九条三項の規定により決定された在留資格をもつて在留するものではないので、その在留の継続は違法状態の継続にほかならず、それが長期間平穏に継続されたからといつて直ちに法的保護を受ける筋合いのものではない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原審の判断に誤りがあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠き失当である。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(高辻正己 江里口清雄 環昌一 横井大三)

上告代理人菅原克也の上告理由

原判決は憲法第一三、第一四条の解釈に誤りがある。

一、上告人らは、原審において、第一審の判決内容が、憲法第一三条の解釈を誤つたものである旨主張した。すなわち第一審判決の、原告らが強制送還された場合、原告ら及びその親族らに経済的、生活的悪影響が生ずる旨認定したうえで、しかしながら原告らの生活等が「不法入国という違法行為の上に築かれたものであり、その事実が発覚すれば全て破綻すべきことは当然に予期していなければならなかつたはずである」との判示部分に対して、違法行為の上に築かれた状態であつてもそれが長期間平穏に継続された場合は、法的保護を受けるものであり、違法状態の指弾が永久に許されるものではない。時効と同一機能を営む違法行為の治癒制度を前提として、本件各処分の可否を判断しなければならないところ、第一審判決は、憲法第一三条の誤まつた解釈の結果、前記判示を為すに至つた、と主張した。

二、上告人らの右主張に対し、原判決は、「本邦に不法入国し、そのまま在留を継続する外国人は、出入国管理令第一九条第一項に定める同令第九条第三項の規定により決定された在留資格をもつて在留するものではないから、在留の継続が違法状態の継続にほかならず、それが長期間にわたつても法的保護を受け得るとはいい得ない」旨判示する。

三、右判示内容は、必ずしも明瞭ではないが、不法入国後の在留事実をもつて、新たに評価すべき違法状態と考えている様である。しかしながら、出入国管理令自体も規定する如く、不法入国者は、不法入国の行為そのものは違法と評価され、かつ処罰されるが、不法入国の結果生じた在留自体については、新たに違法と評価されたり、又処罰されることはない。不法入国、及びその結果である在留継続が、刑法理論にいうところの状態犯と同一の態様又は評価すべき事象であることから、当然の規定内容である。刑法犯のうち、違法状態が継続している状態犯については、時効を認め、不法入国者に対しては違法状態の継続を理由に、違法状態の治癒自体認めないとする原判決は、憲法第一三条、第一四条に違反することは明白である。

四、仮りに、在留という行為を、新たに違法と評価し直す余地があつたとしても、在留という事実のみをもつて、原審判示の如く結論することは許されない。本邦に不法入国した者は、不法出国しない以上、不法状態の継続を余儀なくされているのであるから、その事を非難し、あるいは、違法状態の終結を本人に期待することは、そもそも、違法状態の治癒制度自体を否定することになるからである。

五、以上の如く、原判決は、憲法第一三条、第一四条の解釈を誤り、その結果上告人らに違法状態の治癒を認めるべきか否か、実質的な判断を加えることなく判示されたものであり、破棄されるべきである。

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